Trick or Love?【短】
「付き合うって言えよ」

「は?」

「じゃないと、キスするけど?」


言い終わるのと同時に、原口くんの顔がゆっくりと近付いてきた。


「……っ!」


本気でキスされると思った私は、逃げるよりも先に思わず瞳を閉じてしまった。


「……なんだ。してもいいわけ?」

「ばかっ!そんなわけないでしょ!」


その直後にクスリと笑われたのがわかって慌てて言い返したけど、原口くんの息が頬に当たったことで体が硬直してしまう。
それでも恐る恐る瞼を開けると、彼の顔が予想以上に近くにあって、あまりの恥ずかしさに頬が真っ赤になるのがわかった。


「いいのか?俺は待つのは好きじゃないんだからな」

「あっ……」


別に、ファーストキスじゃない。唇くらい、くれてやってもいい。

だけど……。
そんなことをしてしまったら、きっと次から原口くんとどんな顔をして会えば良いのかわからなくなる。


「やめて……」


何とか小さく零すと、彼はため息混じりに私の耳元に唇を寄せた。


「じゃあ、付き合うって言えよ」


ゆっくりと、まるで耳元を撫でるように落とされた声。
胸の奥がきゅうっとなるのがわかって、同時に背筋がぞくりと粟立った。


顔を上げた原口くんが、私の瞳を搦め取る。それはまるで、心を射るような視線だった。
また、心が掻き乱される。


「ほら、どうする?」


にやり、と笑みが零される。
その意地悪い笑顔には心底むかついて堪らないのに、とっくに逃げられなくなっていることに気付いてしまった。


悔しい……。
悔しくて、悔しくて、堪らない。


だから――。


< 11 / 26 >

この作品をシェア

pagetop