Trick or Love?【短】
&Kiss(おまけ)
慌ただしい時間が過ぎていく。
何度も鳴る電話に、休まることのないタイピング音。それらはリラックスできないBGMだけど、その分緊張感を持って仕事に取り組める。

そして、今日も一日を乗り切ることができた。


「久美、終わった?」

「うん、何とかね」

「私も。これで少し落ち着くね」


にっこりと微笑んだ沙耶に頷いて、お互いに「お疲れ」と労う。
別のチームだけど似たような仕事を請け負っていた私達は、その大変さを理解し合っている。だからこそ、無事に一仕事終えたことでお互いに肩の力が抜けたのが見て取れた。


「飲みに行く?まだ月曜だけど」

「あ、ごめん。今日は……」


苦笑ながら誘ってきた沙耶に言葉を濁すと、彼女が悪戯な笑みを浮かべた。


「そっか。今日で一ヶ月なんだっけ?」

「飲みに行くだけよ」

「でも、今日は正式に返事するんでしょ?」

「……それはまぁ。そういう約束だし」

「じゃあ、原口くんと過ごさなきゃいけないわね。何しろ、記念日になりそうなんだし」


意味深に笑った沙耶に、ため息を返す。ある程度の事情を知っているからこその表情だというのはわかるけど、原口くんには彼女が考えているような返事をするつもりはない。

だけど、それを口にしようとは思わなかった。
話をするのは、決着を付けた後で良い。



「じゃあ、私は帰るわね。お疲れ様」

「うん、お疲れ」


沙耶は特に追求もせずに笑うと、彼女に声を掛けてきた村上くんと仲良くフロアを後にした。公私混同をしない二人の恋愛には好感が持てているからなのか、肩を並べる姿は微笑ましく思えた――。

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