Trick or Love?【短】
引き出しが豊富なのは仕事だけじゃないのが、また何とも言えないのよね……。
裏通りを出たところで乗せられたタクシーでため息をつくと、原口くんが「なんだよ」と眉を寄せた。首を横に振ると訝しげな表情を向けられたけど、彼が運転手に告げた住所がどこなのかを訊いてみると、意味深な笑みを浮かべられただけで会話は終了してしまった。
窓の外を流れていく街の風景は、夜ならではの眩しさに包まれている。恋人同士らしき男女も何度か目にし、きっと私達もそんな風に見られているのだろうと思った。
だけど……私はやっぱり、沙耶達のようにはなれない。
原口くんといると、あの日まで知らなかった強引さ以外にも彼の見たことのない部分を知っていき、その度に新鮮で楽しくもあった。
プライベートでも仕事の時のように色々な角度で物事を捉える原口くんの視点は、仕事ではなくても興味深いと思うことが多々あった。
あの日のことを意識すると二人きりで過ごすことに緊張感もあったけど、いつだっていつの間にか肩の力が抜けてありのままの自分でいられた。
そう――。
あの日まで以上に、毎日がとても充実していたのだ。
それでも、どうしたって踏み切れない思いの方が強くて、原口くんの気持ちに応える勇気はない。
だから――。
「久美」
その声にハッとして、隣に座っている原口くんを見る。
社外では名前で呼ばれることにも、もうすっかり慣れた。時々戸惑うことはあるけど、頭も心も彼の声音に馴染んでしまった自分が嫌になる。
カードで清算を済ませた原口くんは、タクシーから降りるように促してきた。
裏通りを出たところで乗せられたタクシーでため息をつくと、原口くんが「なんだよ」と眉を寄せた。首を横に振ると訝しげな表情を向けられたけど、彼が運転手に告げた住所がどこなのかを訊いてみると、意味深な笑みを浮かべられただけで会話は終了してしまった。
窓の外を流れていく街の風景は、夜ならではの眩しさに包まれている。恋人同士らしき男女も何度か目にし、きっと私達もそんな風に見られているのだろうと思った。
だけど……私はやっぱり、沙耶達のようにはなれない。
原口くんといると、あの日まで知らなかった強引さ以外にも彼の見たことのない部分を知っていき、その度に新鮮で楽しくもあった。
プライベートでも仕事の時のように色々な角度で物事を捉える原口くんの視点は、仕事ではなくても興味深いと思うことが多々あった。
あの日のことを意識すると二人きりで過ごすことに緊張感もあったけど、いつだっていつの間にか肩の力が抜けてありのままの自分でいられた。
そう――。
あの日まで以上に、毎日がとても充実していたのだ。
それでも、どうしたって踏み切れない思いの方が強くて、原口くんの気持ちに応える勇気はない。
だから――。
「久美」
その声にハッとして、隣に座っている原口くんを見る。
社外では名前で呼ばれることにも、もうすっかり慣れた。時々戸惑うことはあるけど、頭も心も彼の声音に馴染んでしまった自分が嫌になる。
カードで清算を済ませた原口くんは、タクシーから降りるように促してきた。