Trick or Love?【短】
エレベーターで五階まで上がると、原口くんは私を先に降ろしてから廊下を進んだ。
些細な瞬間でもレディーファーストを忘れないところが、何だか憎い。そういう部分に気付いたのがこの一ヶ月の間だというのが、また何とも言えない気持ちにさせられた。
仕事中や同期会でそういう仕種を見せられることはあったけど、それは全て仕事用の姿だとばかり思っていたのに……。
「わっ……」
ぼーっとしていた私は、立ち止まった原口くんの背中にぶつかりそうになって慌てて急ブレーキをかける。彼はそんな私を一瞥した後で吹き出し、ドアの鍵を開けた。
「ほら」
「お邪魔します」
戸惑いを抱いたままの私の声音は控えめなもので、それに気付いたらしい原口くんがクッと笑う。平静を装いたくても落ち着かなくて、小さな深呼吸とともに部屋に足を踏み入れた。
玄関を入るとすぐにL字型のダイニングキッチンが視界に入ってきて、そのままリビングに続いていた。リビングにあるドアは、恐らく寝室のものだろう。
1LDKの部屋は綺麗に整頓されていて、原口くんのきっちりとしたデスクを思い出した。
「コーヒーでいいか?」
「あ、うん」
「じゃあ、そこに座ってろ」
小さく頷いてから、指差された二人掛け用のソファーに座って床にバッグを置く。電気ケトルでお湯を沸かし始めた原口くんをチラリと盗み見ると、彼と目が合った。
トクン、と心臓が音を立てる。
慌てて視線を逸らすと、原口くんは何も言わずに一度寝室に入り、スーツの上着を脱いでから戻ってきた。
それから程なくして、静かな部屋にコーヒーの香りが漂い始めた。
些細な瞬間でもレディーファーストを忘れないところが、何だか憎い。そういう部分に気付いたのがこの一ヶ月の間だというのが、また何とも言えない気持ちにさせられた。
仕事中や同期会でそういう仕種を見せられることはあったけど、それは全て仕事用の姿だとばかり思っていたのに……。
「わっ……」
ぼーっとしていた私は、立ち止まった原口くんの背中にぶつかりそうになって慌てて急ブレーキをかける。彼はそんな私を一瞥した後で吹き出し、ドアの鍵を開けた。
「ほら」
「お邪魔します」
戸惑いを抱いたままの私の声音は控えめなもので、それに気付いたらしい原口くんがクッと笑う。平静を装いたくても落ち着かなくて、小さな深呼吸とともに部屋に足を踏み入れた。
玄関を入るとすぐにL字型のダイニングキッチンが視界に入ってきて、そのままリビングに続いていた。リビングにあるドアは、恐らく寝室のものだろう。
1LDKの部屋は綺麗に整頓されていて、原口くんのきっちりとしたデスクを思い出した。
「コーヒーでいいか?」
「あ、うん」
「じゃあ、そこに座ってろ」
小さく頷いてから、指差された二人掛け用のソファーに座って床にバッグを置く。電気ケトルでお湯を沸かし始めた原口くんをチラリと盗み見ると、彼と目が合った。
トクン、と心臓が音を立てる。
慌てて視線を逸らすと、原口くんは何も言わずに一度寝室に入り、スーツの上着を脱いでから戻ってきた。
それから程なくして、静かな部屋にコーヒーの香りが漂い始めた。