Trick or Love?【短】
「さて、と」
二つのマグカップを持ってソファーに来た原口くんは、片方を私に渡してから腰を下ろした。彼の体重の分だけ沈んだソファーが、私の体をも沈ませる。
思わず持っていたマグカップの中身を零しそうになって、慌てて目の前の小さなテーブルに置いた。ふわりと漂うコーヒーの香りが、少しだけ離れる。
「久美の返事を聞こうか」
その余韻を味わう暇も無いまま、性急に低い声が落とされた。
顔を上げると視界に入ってきたのは、真剣な瞳をした原口くんの顔。その表情に、もう待ってくれるつもりはないことを悟る。
長居をしたところで気まずいことは変わらないのだとわかっていた私は、深呼吸をしてから意を決して原口くんを見つめた。
「やっぱり、原口くんとは……」
『付き合えない』と紡ごうとした唇が動かなかったのは、私を見つめる彼の瞳があまりにも真っ直ぐなものだったから。
こんな瞳で見つめられてしまったら、私は……。
「素直じゃないな」
ふわりと苦笑されて、息ができなくなるかと思った。呆れ混じりの苦笑いなのに、胸の奥が大きく高鳴る。
あぁ、もう……。
「私、社内恋愛は嫌なの!周りからは好奇の目で見られるだろうし、からかわれるに決まってるもの!それに、もし何か失敗したら社内恋愛なんてしてるせいだって思われるかもしれない……。そんなの、絶対に嫌なのよ!」
一気に吐き出した私は、肩で息をしそうなほどの勢いだった。
だけど……。
「俺が聞きたいのは、そういう言い訳じゃない」
原口くんの言葉通り、それが全て言い訳だというのはよくわかっていた。
二つのマグカップを持ってソファーに来た原口くんは、片方を私に渡してから腰を下ろした。彼の体重の分だけ沈んだソファーが、私の体をも沈ませる。
思わず持っていたマグカップの中身を零しそうになって、慌てて目の前の小さなテーブルに置いた。ふわりと漂うコーヒーの香りが、少しだけ離れる。
「久美の返事を聞こうか」
その余韻を味わう暇も無いまま、性急に低い声が落とされた。
顔を上げると視界に入ってきたのは、真剣な瞳をした原口くんの顔。その表情に、もう待ってくれるつもりはないことを悟る。
長居をしたところで気まずいことは変わらないのだとわかっていた私は、深呼吸をしてから意を決して原口くんを見つめた。
「やっぱり、原口くんとは……」
『付き合えない』と紡ごうとした唇が動かなかったのは、私を見つめる彼の瞳があまりにも真っ直ぐなものだったから。
こんな瞳で見つめられてしまったら、私は……。
「素直じゃないな」
ふわりと苦笑されて、息ができなくなるかと思った。呆れ混じりの苦笑いなのに、胸の奥が大きく高鳴る。
あぁ、もう……。
「私、社内恋愛は嫌なの!周りからは好奇の目で見られるだろうし、からかわれるに決まってるもの!それに、もし何か失敗したら社内恋愛なんてしてるせいだって思われるかもしれない……。そんなの、絶対に嫌なのよ!」
一気に吐き出した私は、肩で息をしそうなほどの勢いだった。
だけど……。
「俺が聞きたいのは、そういう言い訳じゃない」
原口くんの言葉通り、それが全て言い訳だというのはよくわかっていた。