Trick or Love?【短】
「それに、そういうのはベッドの中だけで充分だろ?」


フッと緩められた、漆黒の瞳。
自分に向けられた視線に込められた意味と、落とされたばかりの言葉の意図を理解して、全身がカッと熱を帯びた。


「まぁ、それはまた今度。とりあえず、返事ちょうだい」

「えっ?今?」

「知ってるだろ、俺は待つのは嫌いなんだよ」


考える時間すら与えて貰えないなんて、さすがに理不尽な気がする。ただ、効率重視で仕事をこなす原口くんらしい言い分には、ほんの少しだけ納得してしまった。


「お互いのことならよく知ってるんだから、その点で悩む必要はないだろ。それに、中内に考える時間を与えたら、周りの目とか気にして断られそうだから」


反論できなかったのは、私の性格を的確に突いた言葉だったから。
原口くんの言う通り、じっくり考える時間があれば周囲の目を気にしてしまうだろう。現に、既にもうそれを懸念している自分がいるのだ。


「だって、社内恋愛なんてリスクが高いでしょ」

「そうか?」

「同僚として働いてるのに付き合ったりなんかしたら、四六時中一緒なのよ?」

「遠距離恋愛よりいいだろ」

「喧嘩したり、別れたら?」

「喧嘩しても、毎日顔を合わせてたら仲直りしやすいと思うけど。そもそも、別れる前提で考えるなよ」


そう言われても、この歳になったらメリットよりもデメリットを数えてしまうものじゃないのだろうか。少なくとも、私はそうだった。


「あのさ、うちは社内恋愛は禁止じゃないし、村上(むらかみ)達だって上手くやってるぞ」


その名前を出されてしまうと、返答に困る。


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