Trick or Love?【短】
目の前にいるのは、同僚。
だけど、今日見せられた表情は今までとは全く違うものばかりで、心が掻き乱される。


正直、告白されたことは嬉しい。
仕事仲間として過ごしてきた相手に好意を寄せて貰えるのは光栄だと思うし、自分が努力してきた時間を認めてくれているようにも思える。

それに、原口くんが社内恋愛というリスクを負う覚悟があるのもわかる。


さっさと断れば済む話なのに上手く拒絶できないのは、きっとそういうことを知ってしまったから……。


「ごめん、私には社内恋愛は向かないと思うから……」


ただ、私には原口くんのような覚悟を持つ自信は湧いてこなくて、断るという選択肢以外に身を投じることは難しかった。


何年か前までなら、約束しなくても顔を見られる環境が嬉しかっただろう。だけど、恋人と別れてからの一年ほどの間に一人で過ごすことのラクさを覚えてしまった私にとって、社内恋愛というのは荷が重かった。


「それはずるいだろ?」


眉間にシワを寄せた原口くんが、再び距離を詰めてくる。せっかく与えられていた僅かな余裕は、一瞬にして奪い去られてしまった。


「……どうして?」

「お前の答え方だったら、社内恋愛じゃなければ問題ないってことになる。じゃあ、俺が転職でもすればOKするのか?」

「そういう意味じゃ……」

「そもそも、さっきから中内は逃げ腰だけど、断る言い訳をそれだけ必死に探してるってことは、中内にとって俺自身は“ナシじゃない”ってことなんだろ?」


低い声音で紡がれた言葉が、心を深く刺す。
その後で瞳を見据えられて、更に拍動が大きくなった。

< 9 / 26 >

この作品をシェア

pagetop