雨の中の喫茶店
エピローグ(A)
薄っすらと雲間から覗く月明かりを窓から覗いていた。
少し眠れないのだ、特にあの出来事の後だから。
結局随分とあの喫茶店には迷惑を掛けてしまった。
二人で気恥ずかしくも感謝と謝罪をした後で静かな帰り道を歩いた。
眠れない動物が月と並んで散歩する、そんな童話を思い出しながら。
彼の部屋に二人で着いたあと私は後ろから彼に抱きついた。
何時もの誘う時の合図。
でも彼は“シャワー先に使うね”と言ったのに・・・
私がシャワーを浴びている間にすんなりと眠ってしまった。
それに少し安心している自分に気付いている。
まだ一緒に寝る勇気は無い。
あの喫茶店で彼の印象が大分変わってしまった。
今までは随分と頼りになる人だと思っていた。
事実そうだったけれど・・・それが彼を苦しめていたのかもしれない。
なんだか幼い子供の相手をするような気持ちになった。
でも何故かそこに自分がダブって見えた。
遠い記憶に彼と同じ様な痛みがあるのだろうか?
最後、喫茶店に戻って話し合いをした時の事。
彼の声が初めて聞こえた気がした。
“僕を嫌わないで。”
それに私は幻滅したのだろうか?
でも、ほっとしたのも事実だった。
頑張ろうと無理していたのも本音ではあったのかもしれない。
どうしてもっとお互い楽にいられなかったのだろう?と今は思う。
今までよりずっと彼が身近になった事。
それは間違いなく事実で、だけど新しく付き合い始めるような感じ。
どう付き合っていけばいいのか?
多分、答えをこれから探していく事になる。
そこに私は彼と共にいるのだろうか?
それでも彼といたこの時を後悔しない。
この先どの道を歩いていっても後悔はしないだろう。