ずっと見守る

「お父さん。ただいま」

 何年もの入院からようやく帰る。

 帰ってすぐ、お父さんの仏壇に手を合わせる。

「みぃちゃんー?廉太くんがきたわよー?」

 リビングから聞こえるその声に、和室を飛び出た。

「美咲。退院おめでと」

「廉太っ!!」

 廉太も高校を無事、卒業した。

 廉太は、専門学校や大学には行かず、就職するらしい。

「お母さん!廉太、部屋に入れてもいいー?」

「えぇ。お母さんは買い物に行ってくるから。廉太くん、ゆっくりしていってね」

「はいっ」

 お母さんは財布をカバンに入れると、家を出て行った。

 冷蔵庫には飲み物が何も入っていない。

 ありゃりゃ・・・・・・。何も出せないや。

 とりあえず、クッキーをお皿に入れて、廉太を部屋に招いた。

「汚いけど許してっ」

「おう。美咲の部屋に入るの初めてだな」

「それもそうだね!ずっと病室だったもんね」

 部屋っていうか、家もじゃないかな?

 あ、お母さんが仕事帰りに、廉太とバッタリ会ったから少し上がらせたとは聞いた。

「美咲は将来何したい?」

 将来・・・・・・?

 そりゃあ、廉太と結婚して・・・・・・。

 そんなこと言えるわけないよ。

「・・・・・・将来のことなんか考えられないや。考えても軽々言えないよ。だって今、こうして生きてて幸せだよ」

「美咲。話がある」

 あたしの胸が大きな音を立てる。

 いつもよりすごく真剣な廉太の顔。

 もしかして、結婚しよう・・・・・・とか?

 でも、病気だし、23までもうすぐだから別れようとか?

 でもね、廉太の話だったらなんでも受け入れるよ。

「俺と、結婚してください」

 その言葉と同時に目の前に出された、ピンクの小さな箱。

「・・・・・・っふえ」

 返事なんか決まってるのに。

 うれしすぎて、返事より涙が先に溢れちゃったよ。

 廉太。あたし、幸せかもしれない。ううん、すごく幸せ。

「泣くなよ。まだ18だし、バイト代で安いのしか買えなかったけど」

 廉太はそう言うと箱のリボンを綺麗にほどいて、中から綺麗な指輪を出した。

 あたしの左手を握ると、それを薬指にはめた。

「よっしゃ。サイズもぴったり」

 そう言うと、ニッって眩しい笑顔を向けるんだ。

「廉太っ・・・・・・結婚、するっ」

 泣きながら、廉太の胸の中に飛び込んだ。

 いきなりだったけど、廉太はしっかり受け止めてくれた。

「ずっと一緒だからな。離れんなよ。離さねえから」

「うんっ」

 涙がとまらない。

 そんなあたしの涙を、親指で拭ってくれた。

 神様。

 あと何年かわからないけど、すごく幸せだよ。

 ありがとう・・・・・・。
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