土方歳三と運命の人~沖田総司と運命の駄犬 番外編~




忠兵衛が来た後の数日間、俺は、梓に、未来へ帰れと言えないでいた。





いざ、言葉にしようとしても、出てこない。




土方「ったく、何やってんだよ。俺は・・・情けねぇ・・・。」





そんな時、梓が、俺の所へ来た。





梓「土方さんっ!あの・・・っ・・・お話が・・・。」





俺は、梓に連れられて、近くの河辺に来た。





少し前を歩く梓は、ソワソワして、上の空だ。





そして、人気のない所まで来ると、梓は、振り向いた。





梓「ひ、土方さんに、言いたいことがあるんですっ!」





その目は・・・俺を欲してる女の目だった。





梓「私!土方さんが、好きです!それで、出来れば、私と付き合って・・・。」





俺は、梓の口に手を置き、言葉を遮った。





土方「言うな・・・。」





梓「え?」





梓の目が揺らいだ。





好いてるおなごと心が通じたのに苦しい・・・。





胸は、痛いくらいに、高鳴っている。




何もなければ、抱きしめて、自分の気持ちもぶちまけて、抱きしめたい。





でも、それをしてしまったら、梓を独りにしてしまう。





一時の感情で、梓を危険な目に遭わせるなんてしたくねぇ。




土方「俺は・・・俺は・・・。」






言え。




俺は、組では、鬼って、呼ばれているじゃねぇか・・・。





土方「俺は、お前の気持ちに応えれねぇよ・・・。」





梓「でも・・・私の事、運命のおなごって・・・。」





そうだよ。




お前は、俺にとって、運命のおなごだ・・・。




こんなに心を乱れさせるおなごはお前だけだ・・・。




土方「はぁ・・・。お前なぁ、俺のこと、他の奴らから聞いてるんだろ?俺は、おなごなら誰でも良い。ここへ、来たのが、お前だったから、お前が、運命のおなごって事だ。別の奴が、来ていたら、そいつがそうなってた・・・。」





梓が、小刻みに震えている。




泣きそうになっているのを、我慢している。





土方「あぁ。そうだ・・・。お前、平成の世に帰れる事になったぞ。」





梓「え?」




土方「忠兵衛が、占い屋忠兵衛が見つかった。で、お前は帰れるんだとよ・・・。良かったな?」




梓「私・・・。土方さんの側に・・・。」




好いてるおなごにそこまで言ってもらえて、それだけで・・・十分だ。





土方「梓、お前の存在は、俺には、邪魔なんだ。」





梓「っ!・・・邪魔・・・?」





土方「あぁ。だって、そうだろ?おなごとしてここでやっていけねぇだろ?世話しなきゃなんねぇ。」





梓「訓練します!だから、ここに・・・っ。」




土方「グチグチうるせぇ!!!」





俺が、怒鳴ると、梓は、ビクッと体を揺らした。





土方「ここは、元々、女人禁制なんだよ。それを、占い屋忠兵衛が見つかるまでは、置いてやったんだ。未来に帰れるなら・・・平成に帰れっ!」






梓「そ・・それが、土方さんの気持ちですか?土方さんにとって、私は・・・。」





土方「邪魔者以外の何者でもねぇ・・・。」





梓「そんな・・・っ。・・・未練がましいかもしれません・・・。でも、私は、土方さんが好きです。きっと、未来に帰っても、この気持ちは・・・っ。この気持ちは・・・っ。」





我慢できずに、梓の目からは涙が、流れ続けている。





土方「泣く女ほど、うざったい物はないな・・・。」





そう言うと、梓は、息を飲んだ。





そして、涙を拭いた。





その時の顔つきは、何かを決心したときの顔つきだった。




梓「確かに、占い屋忠兵衛が見つかるまでって言ってました・・・。私・・・帰ります。土方さん。これだけは言わせて下さい。私は、あなたが、大好きです。私は、あなたを運命の人だって思ってます。だから・・・だから・・・もし、今度、会えたら、その時は・・・。」






俺の心は、痛くて痛くて苦しい。





これぐらいは良いよな?





俺は、梓の頭を撫でて微笑んだ。




何を言っていいかわからねぇ。





今度会えたら、次は、俺からこの想いを伝えたい。




でも、今は、言えねぇ・・・。





土方「お前には、本当に、感謝している。梓、礼を言う。元の所で、達者に暮らせよ?」





梓は、ニコッと笑い、はいと返事をした。




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