強引な次期社長に独り占めされてます!
「本当に記憶ない?」

どこか懐疑的な表情の主任に、冷蔵庫に向かいながら首を傾げる。

「途中まではハッキリ覚えてます」

「んじゃ、お試しで付き合う事になった話は?」

それは覚えてます。
付き合う事にはなっていなかったはず……ですけど。

考えていたら、主任の困ったような声が聞こえた。

「とりあえずコート脱いでいいか?」

「どうぞどうぞ」

ネギを手に取り、まな板を出しながら、コートを脱いでいる主任を横目で見る。

今日の装いは、薄い水色のワイシャツにシンプルな濃紺のカーディガン。それからジーンズを合わせていた。

お洒落はよくわからないけど、似合っていると思う。

「お腹空いているなら、二人前もいっちゃってくれますか?」

「え。それはさすがに多いだろ?」

「年越しそば、実は四人前を買っちゃったんです」

二人前もあるにはあったけど、買い出しが出遅れたから、ほとんど売ってなくて……。

「……逆に、ひとりで年越しのくせに、そばを食べようとしてるお前に驚きだよ」

「そうですか? お節料理も食べませんか?」

さすがにお節セットを予約はしないけど、栗きんとんと煮物くらいは食べるかな。
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