強引な次期社長に独り占めされてます!
さすがに“何かがおかしい”と気づいた主任が顔を上げると、お兄さんたちは何故かいそいそとコートを着ているところだった。

「兄貴ちょっと待て、どこに行く?」

「デートだ。留守番頼む」

ガラガラと引き戸を開けて、お兄さんが主任を振り返る。

「はあ? 無理に決まってんだろ。ちょ……っ」

「暖簾はしまっていくから。二時間くらいで戻るし、よろしくね?」

ニコニコと瑞枝さんが言って、引き戸が閉まると、カチリと鍵を閉められた。

後に残されたのは、大量の料理と、ポカーンとした私たち。

「……ご、ごめんなさい」

「いや。謝られても……何を考えてるんだ、兄貴たちは」

たぶん、気を……使ってくれたんじゃないかな。でも、いろんな意味でこれは申し訳ない。

しょんぼりした私と、呆れた主任の目が合うと、お互いに困ってしまって座り直した。

「とにかく。食うか」

「あ。はい。いただきます」

黙々と箸を進めて、半分くらいのところで、ボソリと主任が呟いた。

「俺はくだらない理由で、別れるつもりはないぞ」

烏龍茶を飲みながら、主任が不機嫌そうな顔をする。

「でも、主任……モテるんでしょう?」

「それはねえよ。だいたい、彼女できたの久しぶりって言っただろうが」

聞いたけど……。

「あー……もう、本当に……前に言った事を覚えているか?」

前にって言われても、主任はいろんな事を言うから……。
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