強引な次期社長に独り占めされてます!
「可南子さ……」

急にトーンダウンして、妙に優しくなった主任の声に一瞬引いた。

「お前はおとぎ話が好きなくせに、どうして自分が“幸せ”になる事を否定しようとするんだ?」

「だって……」

童話は好きだけど、だって、それは“お話”の中の世界で……。

現実は『めでたしめでたし』や、『幸せになりました』で終わらないのは知っている。
知っているから、現実を見たくない時には童話の世界にいることが好き。

その時だけは、現実を忘れていられたから、その時だけは、私は“松浦可南子”じゃなくて、お話の“お姫様”になれたから……。

力なく座り直すと、主任は烏龍茶を飲んで、テーブルに肘をつく。

「現実を信じないのは悪い癖……なんだろうな。確かに“永遠に幸せになりました”って、言われても、お亡くなりになったのかと思うけど」

……そのフレーズから、どうして死を結びつけるのか、その発想がわからないけど。

「生きてりゃ山や谷や壁があって、幸せに思えるかどうかは、お互いの努力か、自分の考え方次第だろ。後ろ向きになんていつだってなれるんだし、後ろ向きに歩いている奴なんていないんだし」

思わず“後ろを向いて歩いている人”を想像して、唇を歪ませた。

主任はとても真剣な顔をしているんだし、さすがに、今、笑っちゃいけない気がする。

「それにお前さ。根本的に大事な事を忘れてないか?」

「私が……? 根本的に?」
< 197 / 270 >

この作品をシェア

pagetop