強引な次期社長に独り占めされてます!
「……幸村さんと、仲良さそうに話をしていたら、胸の奥がチリチリ痛いくらい、かな」

ポツリポツリ呟くと、パッと主任が顔を上げた。

「マジで……?」

マジですけど……。

きっと、あれは嫉妬とか言うじゃないかな。嫉妬とか言うんだったら……たぶん……。

主任が私の頬に手を伸ばすのと、戸口の方からカチリと何かの音がしたのは同時だった。

思わずふたりで振り返ると、ガラリと引き戸が開く。

「帰ったぞ」

ズカズカと大量の買い物袋をぶら下げて、カウンターに向かうお兄さんと、にこやかに微笑みを浮かべて入ってくる瑞枝さん。

「……タイミング悪ぃ」

「お前がノロノロしてるからだろ。彼女を紹介するって言うなら、ちゃんと聞いてやるから、飲めるような日にうちに来い」

「……正月に行っただろうが」

「あれは新年の挨拶だろ。それにそん時の彼女は、きっとまた“彼女”じゃなかっただろう?」

キッと振り返った主任と、淡々としたお兄さんが言い合いを始めている。

それをボンヤリと見ていたら、瑞枝さんがこそっと私の傍らに腰をかけた。

「落ち着いたのかしら?」

落ち着いた……のかな?

考えてみて、微かに頷くと、瑞枝さんは優しく微笑んでくれる。

「うちの弟をよろしく……だって」

「え……?」

「義継さん。口下手だから、私に言っておけって」

それから、ふたりでカウンターを挟んで言い合いをしている兄弟を見守った。

「……楽しそうですね」

「男ってどうしようもなく不器用よねー……でも、それが愛しいんだから、私は諦めたよ」

微笑みを浮かべたまま呟く瑞枝さんに、大人の女性の余裕を見せつけられた。

……なんか、いいな。

私も、そう言えるようになりたいな。

そんな事を考えた夜だった。









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