強引な次期社長に独り占めされてます!
***



そして迎えに来た主任は、ドアを開けた私の姿を見るなりキョトンとした。

「前髪、切ったのか?」

眉毛よりもちょっと長いくらいの前髪。正直言って、この長さに揃えるのは幼稚園ぶりだと思う。

事の成り行きと経緯を話した芽依に、張り切って切り揃えてもらったのは昨日の話だ。

「へ、変ですか?」

「変じゃねえけど、慣れないかな。でも……いい感じだ」

優しく微笑まれて顔を赤らめる。

それから、主任の格好に首を傾げた。

ラフなフリース素材のパーカーにシャツを着て、ジーンズにスニーカーだ。

「その格好で会社にいたんですか?」

「休日出勤だからな。平日と違って、土日はスタッフさんしか出入りしないからスーツだと目立つんだ」

ああ。土日は事務所は基本お休みだから……。

部屋を出て、ドアに鍵をかけながら持っていたトートバックを肩にかけ直す。

「ハロウィンの時も休日出勤していたんですね」

「ハロウィン? ああ、あの頃は毎週だったかな。よく覚えてるな」

「仕事帰りって死神さんが言ったから、真っ先に“事務所”の人じゃないって安心したんです」

歩きだした私の後ろについて、主任は少し難しい顔をする。

「少しでも事務所の人間だと思ったら、どうしてたわけ?」

「お誘いもお断りしていたと思います」

「……そりゃ、俺にとっちゃラッキーな話だな」

そんな事を言いながら、車に乗って主任の家に向かう。
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