強引な次期社長に独り占めされてます!
「あの……メモしなくても……?」

いいんですか……という言葉は、上原主任の、自信満々の笑顔を見て飲み込む。

主任って、こんな表情もするんだなぁ……。

「8桁くらいは暗記できるだろ。数字のみのパスワードはセキュリティ甘いぞ? 出社したら速攻で変えろ」

ざっくり注意を受けて瞬きする。確かに甘いとは思っていたけど、自分に身近な数字以外、思いつかないから最低限の数字にしてるのに。

「しかも生年月日は最悪だぞ。なんの為に、経理のパソコンをネットワークから切り離してると思ってる」

……今度はガッツリ注意を受けた。
はい。パソコンのセキュリティのためですよね。存じてます。

「あまり思いつかなくて……」

「好きな英単語でもいいぞ。あるだろ何か」

「私の生年月日なんて、覚える人はいませ……」

言いかけたら、上原主任に無言で見返された。

あー……はい。主任は覚えたわけですね。

「考えておきます……」

もぞもぞと布団を引き上げ隠れながら呟くと、小さくクスッ聞こえる。

……考えてみなくても、上原主任と、こんなにお話したことないな。
だから、笑った主任なんて想像なんてしなかった。
人間なんだし、笑うこともあるだろうけど、いつもなんとなく無表情に近い淡々とした印象があって勝手に苦手意識を持っている。

だって、男の人はすぐに外見の事を言うから……。

気まずさを隠して無言でいたら、主任も黙りこんで、その静けさにちょっとウトウトしてきた。

沈黙が心地いいと感じた事はなかったけど、全くの静寂でもない。
部屋の外を行き交う人の話し声や、誰かの足音。それから窓の外の風の音。

時々声をかけれて、また生年月日を聞かれる。
それを微睡みながら答えて、なんで同じことばかり聞くんだろうと夢心地に考えて……。
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