強引な次期社長に独り占めされてます!
「じゃあ、失礼します」

軽く頭を下げて事務所に入ると、目を丸くした高井さんと上原主任が見えたような気がしたけど……。

でも、それには背を向けて正面に向き直った途端、野間さんが視界に走り込んできた。

「おはよう松浦さん、調子はどう? 歩いて大丈夫?」

ペタペタ身体を触られて少し引く。

「おはようございます。ご心配おかけしました。特に頭痛も吐き気もないので、問題ないかと思います」

野間さんについていきながら頷くと、ホッとしたような顔をされた。

触らなければなんてことはないんだし、大丈夫……だと思う。でも今日は高いヒールの靴は履かずにローヒールのブーツにしたけど。

「あまり無理しないでね。でね、早速だけど労災申請に記入して、今日中に提出してもらえると助かる。病院の領収書と印鑑はある? ないなら明日まで待つから」

「わかりました」

書類を受け取っていたら、入ってきた上原主任が呆れたような視線で私を眺めているのに気がついた。

「何か……?」

「まぁ……なんでもない。ガッカリしていたが……いいのか?」

「何がでしょうか?」

首を傾げたら、主任はちょいちょいドアを指差してふっと笑う。

「君は高井に返事してないが」

あ……そうかもしれないけど。
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