強引な次期社長に独り占めされてます!
彼女が離れると、途端にフードを目深に被る。

被って、隙間から見える景色に溜め息をついた。

華やかな席は苦手だ。
そもそもイベントスタッフやプランナーの人とは違って、私は完璧な裏方の事務職だもん。

オレンジジュースを飲みながらフロアを見渡す。

それにしても、青白い顔をして血を流しながら笑ってビールで乾杯しているゾンビや、真っ青な顔をしてノリノリに踊っているナースを見ることになるとは思っても見なかったな。

去年は私、風邪を引いて欠席したし。これはこれで見ているだけでも楽しめそう。

……だって、冒険は冒険だもん。

不思議の国にウサギを追っかけて行っちゃう女の子。

舞踏会に行きたがって、カボチャの馬車に乗って行っちゃう女の子。

人間の世界を見てみたくて、ウキウキわくわく海底から海面に飛び出してしまった女の子。

根本にあるのは好奇心だと思う。

好奇心がない……というわけじゃないけど……。

「冒険は、飛び込む勇気が必要だよね」

好奇心があっても、飛び込む勇気がなければ見ているしか出来ないし。

「ひとりが恐いなら、ふたりならどうだろうか」

低い声が聞こえてきて、聞き間違いかと思いつつ隣りを見た。

隣には見上げる程の長身。私と同じように全身真っ黒なフード付きのケープ……というよりマントを着て、肩には素晴らしいクオリティの大鎌を背負っている。

ちらりとフードの下に見えたのは、ドクロだ。

……死神って、目に見えるんだろうか?
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