強引な次期社長に独り占めされてます!
「いや。やめておこう。お前は逃げ出しそうだ」

「逃げません、約束しますから」

「口約束は信じないことにしてる」

「どういう事ですかそれ! 人を信じない人は誰にも信じてもらえませんよ!」

主任はじっと私を見て、掴んだままの手を、スルスルと腕から手元に手を下ろす。

「それはセクハラです……」

呟きは聞こえなかったようで、手を繋いでスタスタと歩き始めたから、仕方なくついて行く。

もう辺りはすっかり夜だ。お昼がどんどん短くなっちゃうなぁ。
風も冷たいし……なんて現実逃避もしちゃうんだから。

黒い車の前まで来ると、主任は鍵を取り出してキーロックボタンを押した。

チカッとハザードランプがついて、微かに聞こえるロックが外された音。

……まぁ、うん。主任は全く知らない人じゃないし。大丈夫……と、言えば大丈夫。

だと思うけど。

「まさか俺に開けろとか言ってる?」

揶揄するような言葉に首を振った。

「いえ。覚悟を決めてました」

諦めて車のドアを開くと、大人しく助手席に座る。

……主任がこんなに強引だとは知らなかったです。

半泣きになりながらシートベルトをつけ、それを確認してから主任は運転席に乗り込んできた。

「それで、お前の家はどこだ」

「S区です」

「へぇ。けっこういいとこ住んでいるんだな」

エンジン音に紛れて小さな吐息も聞こえたけど、主任はゆっくりとアクセルを踏み込んだ。

いいところかどうかは知らないけど、学生時代から住んでいて、とても住み慣れた場所だと思う。
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