強引な次期社長に独り占めされてます!
そんな事を考えながら主任を見ていたら、赤信号で車が停まって微かに視線が交わった。

「いつもそうしていればいいのに」

「え?」

「慌てて化粧したのか?」

つんつんと自らの前髪を指差し……。

「あ……!」

ピンで留めたままの前髪に気が付いて、慌てて外そうとして引っ掛かった。

「痛……っ!」

「慌ててるからだろ。馬鹿だな、お前は」

涙目になりながら髪の毛が絡まったピンをバックにしまう。

そんな私を、主任は車を発信させてから小さく笑った。

「そんな執拗に顔隠さなくてもいいだろう?」

その言葉にはきっぱりと首を振る。

「嫌です。顔を晒して生きるのは。私の顔を見ると皆が戸惑っているの知ってますもん」

「お前な緊張のし過ぎだろうが。緊張感は人に伝染しやすい。人を窺うような上目使いとか猫背とか無くなって、ニコニコしてりゃ可愛い部類だって言っただろ」

「大人の男の人はお世辞が上手いから……」

「大人の男はもっと巧妙だぞ。騙されないように気を付けろな?」

さらっと何だか聞き捨てならない事を言われた気がするけど、気にしない。

どうせ私には関係ない話だし、そんな雰囲気にならないようにすれば騙されようも無いんだし。
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