強引な次期社長に独り占めされてます!
もそもそコートを着て、ふたりについて行くと、こじんまりとした小さな小料理屋に入った。

暖簾を潜った先に見えたのは木造で作られた店内は純和風……と言うよりは純昭和な佇まい。

小上がりとカウンター席があって、カウンター席の中に調理場、中が一段下がって見えるようになっていた。

そこに着物に割烹着姿の女の人がいて、満開の笑顔で出迎えてくれる。

「あらー。久しぶりじゃない」

「クリスマスなのに空いてるな」

「クリスマスだから空いてるのよ!」

そんな気兼ねないやり取りをして、主任は私を見下ろした。

「姉だ」

「え……?」

あ、姉? 主任のお姉さま?
いやちょっと待って? それはイキナリ過ぎないですか?

あまりにも唐突な紹介に衝撃を受けたのは私だけではなくて、野間さんも目を丸くして調理場の女の人を凝視している。

「お姉さんのお店に来るなら来るで、どうして前もって言ってくれないわけ?」

そうだよ。確かに私はどこでもいいけど、普通は前もって『どこの店に行くか』くらいは言うもんでしょう?
野間さんすら知らないって事も、私には驚きですよ!

でも、問い詰める野間さんを眺めて主任は首を傾げている。

「なんで野間に言うんだよ」

じゃあ、なんで私を見て言うの。

……と、思ったけどやめた。
余計な一言になりそうな気がする。

常連さんが来るかもしれないから、と小上がりに案内されて、黙って正座をした。
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