君を想う【実話】



「誰っすか?」



ただならぬ雰囲気を察したのか、智也が男を軽く睨むように口を開いた



男はまるでそれを嘲笑うように、冷たい視線で二人を見下ろす




「こいつの父親だよ」



そして、吐き捨てるようにそう言った



智也は驚いた様子で瑠奈を見る



驚くのも無理はない



ただでさえ若いのに、見た目だけでいえば二十代で通用するような男



一般家庭の父親とは、とても思えない



「..勝手に父親面しないでよ。出てって!!」



瑠奈は手元にあったリモコンをドアに向かって思い切り投げつけた



興奮して息があがる



男は怪訝そうにドアを閉めると、大人しく部屋を出ていった




「平気か?」



智也はそれ以上、何も言わずに瑠奈を抱き締めた



頭を撫でる大きな手



暖かいぬくもりに、目頭が熱くなる





泣いたりなんかしない




あいつのために涙なんか流さない..





智也は心配そうな顔をしていたが、目があうと優しく微笑んだ




心の中の黒いものが少しずつ消えていく..





そのまま智也を求めた





心も体も、智也で埋めるために..





< 347 / 436 >

この作品をシェア

pagetop