君を想う【実話】


「ん?ねぇ、今のとこなんだけど」


瑠奈がぼんやりしてる間に、車は曲がり角を通りすぎてしまった


「あ、ごめん!戻るわ」


ふと見ると、男はタバコをくわえて火をつけるところだった



それで曲がり角、見落としたのか..



瑠奈はタバコの煙を外に吐き出して、空を見上げた


さっきまで出ていた星達は、黒い雲に飲み込まれて、不気味な灰色の空が広がっている


「雨ふりそうだね」


「あぁ..そうだな」


男はポツリと呟いて、瑠奈の家からほど近い、広い駐車場に車を入れた


Uターンをするために入ったのかと思ったが、車を動かす気配がない


「どうしたの?」


瑠奈が男を覗き込むと、男はゆっくり顔をあげた



差し込んだ外灯の薄明かりに照らされた男の顔は



とても悲しそうで..




「..好きなんだ」




いつの間にか、車内の音楽も消えていて、男の声だけが小さく響いた



あまりにも悲しそうな瞳に、瑠奈は思わず目を反らしてしまった



「..ごめん」



そう呟くのが、精一杯だった




< 378 / 436 >

この作品をシェア

pagetop