君を想う【実話】
瑠奈は、細い肩に大きなバッグをかけて、男の車に乗り込んだ


5キロ以上落ちた体重は、元から華奢な瑠奈の体を一段と脆く見せる



「近いんだから、暇な時は帰ってこいよ」


出ていく時に、背中越しに聞こえたお兄ちゃんの声



一度だけ、思い切り怒鳴られたね



でも、それからは何も言わないでくれたお兄ちゃん



「..ありがと」



聞こえるかわからないほど、小さな声で呟いた




またここに、戻ってくる日はくるのかな..




新しい家についた瑠奈は、荷物の整理をしていた



この家は、前にも女が住んでいたのだろう



だとしても、そんなこと瑠奈には関係ない..



「これ、鍵な」


男が瑠奈に差し出したのは、この家の鍵


ふと、男のほうを見た



智也と同じくらいある身長に、整った堀の深い顔立ち



こんな身なりだったら、女に困らないだろう




でも―



この男は、何も知らない瑠奈のことを選んだ




運の悪い男―




そんなことを思いながら、鍵を受けとった




男の名は


光星(コウセイ)―


早生まれの20歳



それ以上の情報は、瑠奈に特別必要もなかった



< 396 / 436 >

この作品をシェア

pagetop