THE 番外編。
――ピンポンッピンポンッ…ピピピンポンッ!
「先生!開けてください!先生!」
いつものように荒々しく玄関ドアを叩く。
数秒後、内からガチャリ、と鍵を開ける音がして、一歩後ろに下がる。
ガチャッ――
『あら、茉子ちゃん!待ってたわよ!』
開いたドアの先からひょっこりと顔を出したのは、私が担当を任されてもうすぐ10ヶ月くらいになろうかとしている、人気小説家・工藤 蓮先生。
業界ではオネェ作家としても有名だ。
にこやかに私を迎え入れてくれた先生とは対照的に、私は眉を顰め、先生を不審な眼差しで見上げた。
「待ってたって……もしかして、原稿上がったんですか?」
『――ん?』
ガチャンッ、と私の背後で玄関ドアが閉まる音がする。
鍵くらい私がかけるというのに、いつものように何でもない素振りで、先生は私を挟んで玄関のカギをかけた。
その瞬間、先生の香りが微かに私の鼻腔を燻る。
『原稿?……もちろん、上がってないけど?』
「ッ――…!」
や、やっぱり……!!
最早、原稿入稿日に先生が原稿をあげていないことも当たり前すぎて、さほど驚くことでもないのである。