THE 番外編。
ここに向かう前から、嫌な予感くらいしていた。
いつも入稿日に怯える私とは反対に、この工藤という男は危機感というものを欠如しているためか、平気で恐ろしいことを口にする。
今日の入稿は、先生にとって今年の仕事納めのはずだ。
……いつもより、もっと原稿と真摯に向き合っているかもしれない、なんていう私の淡い期待は、先生のお宅に訪問して数秒で脆く崩れ去っていった。
『……どうしたの、茉子ちゃん。』
いつも通りというか、何の進歩もしないというべきか、呆れかえって物も言えずに固まっていた私の顔を覗き込む先生の顔が、全く反省の色も感じられなくて、気付けば――…
「私なんか待ってないで、さっさと原稿あげてください!!」
と、いつものように声を張り上げて叫んだ。
『……。』
ガウウ…ッと、いつ噛みついてもおかしくないほどの威嚇を先生に向ける私。
こういう時、先生を甘やかしてはならないという教訓は、この10ヶ月で嫌というほど思い知らされている。
『…茉子ちゃんはいつも可愛いわねぇ』
しかし、先生から返ってきた言葉は、私の予想を大きく外れた、的外れなもので。
私の威嚇なんて見えていないかのような、晴れやかな笑顔を見せている。
『原稿なんて書かずに、今日は茉子ちゃんを可愛がろうかしら?』
「っ~~…入稿まで、もう引っ込んでてください!!」
これ以上は、何を言っても通じないと踏んだ私は、先生のたくましい背中を無理矢理に押して、書斎に先生を追いやったのだった。