THE 番外編。
「…うん、どうしたの…?」
『……いや、そんな大したことじゃないんだけど…さ。』
いつもより、たどたどしく言葉を紡ぐ彼の声から、小さな緊張がうかがえる。
私だけじゃないと分かったとき、どうしようもなく口元が緩んでいく。
「ん…?」
『――……あけまして、おめでとう。』
「……!」
千尋の言葉に、驚きながらも、携帯の画面に映し出されている現在の時刻を見ると、もうとっくに12時は過ぎていて――…
『今年も、…よろしく。』
千尋の、いつもより硬めの声を聴きながら、私は福岡に里帰りする前日に会った彼のことを思い出した。
会えなくなるのは少しだけだとわかってても、やっぱり淋しいと、耳裏を真っ赤にさせながら言った千尋を。
“最近、雛乃と一緒にしたいこととか、行きたい場所が増えるばかりで、困る。”
そう言った彼を、ひどく愛しいと感じて、私も同じだと答えた。
出来ることなら、この年末年始も、千尋と一緒に居たかった。
出来ることなら、千尋に会って、新年の挨拶を交わしたかった。
照れ屋で、すぐに顔に出る2人だけど、自分の想いを伝えることこそ大事だと、気付いているからこそ、私たちは今まで一緒に居られたのだと、そう思う。
『…雛乃?』
「ん……千尋。」
『何?』
わざわざ電話をくれた千尋に、私も応えたい。
いつだって千尋には、どんなに感謝や思いを込めても返せないくらいの大きなものをもらってばかりだから、こんな時こそ
自分の気持ちを
正直に
伝えたい。