秘密
直兄が迎えに来て、ふわりと、手が温もりに包まれた。
その状況を理解した瞬間、頭が真っ白になった。
浴衣着せてくれた店員さんに、会釈くらいしたかったのに、それすらできなかった。
だって、直兄が、私の手を握って歩き出したから。
それから、どうやって帰ったか、覚えてない。
たぶん、5月に浴衣着てる人なんていないから、じろじろ見られたんだろうけど、そんなの気にならなかった。
ただ、早足で歩く直兄に引っ張られて歩いていた。
家について、離された右手は、しばらくおかしかった。
手なんて、いつも繋いでるのに。
今日は特別、恋人同士になれた気がした。
浴衣を差し出したときの、直兄の笑顔が、妙なくらい、脳裏に焼き付いた。