秘密
お兄ちゃんは素敵な人だ。
名前は平川直。
私の家族は、お父さんがいない。
私がまだ小学校に入る前、病気で亡くなった。
動物病院で獣医をやっている母はいつも忙しく、幼い私の面倒は、直兄が見てくれた。
直兄は昔からちょっと無愛想だった。
「このは、座って」
私は、直兄の体の中にすっぽり収まるような温もりの中で、お風呂あがりの濡れた髪を乾かしてもらうのが好きだった。
口数は少ないけど、髪の毛を流れるようにとかす直兄の指先は、いつも優しかった。
いつからだろう、その指先が触れる瞬間、体がぽっと熱くなったのは。
ドライヤーの冷風が当たっても、わたしの頬が熱くて真っ赤になっていくのが、直兄にばれたのは、いつなんだろう。
乾かし終わった後、髪を撫でる指先が、その頬に触れて
振り向いて、直兄の茶色がかった透き通る瞳に見つめられたのは…
直兄の指先が私の唇に触れて、ふわりと、唇を重ねられたのは…