秘密
「このは、じゃあね!」

「ばいばい!」



放課後、部活に向かう葉子を見送ったあと、私は真っ先に学校を出た。



私の部活は華道部。特別な行事がないときは、週に1回しか活動しないから、ほぼ帰宅部なんだ。



私が向かう先は、近所のスーパー。



大学院や病院で忙しい直兄とお母さんのかわりに、料理を作るのは私の仕事。



ふたりとも帰りが遅いから、夕食はいつもひとりで食べて、ふたりぶんをラップしておく。



今日は鶏肉が安かったから、シチューを作っていた。



「ただいま。」



作り終わって、ひとりぶんを皿によそっていたとき、ガチャっとドアが開いた。



びっくりした。



直兄が久しぶりに早く帰ってきた。



「早いね」

「うん。昨日、泊まりだったから…」



そういえば、昨日は帰ってこなかった。



研究室で徹夜だったらしい。



直兄はぐったりしたようすで、上着を脱いだ。



「このは」



直兄は、台所の私を後ろから抱き締めてきた。



ふわりと、直兄の甘い香りがした。



「直兄、目、赤いよ」



振り向いて徹夜で充血した直兄の瞳を見つめた。

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