恋は死なない。
ほとんどお客は来ないとはいえ、工房を開けている時間は7時までなので、とりあえず玄関のガラスのドアにカーテンを引いて、「CLOSE」の札をドアノブに掛ける。
――……何か、食べないと……。
この時初めて佳音は、お腹が空いていることに気づいた。そういえば、朝食を食べたきり、昼食を食べた記憶がない。
冷蔵庫を開けてみても……、もともと料理をしようと思って食材を買い込んだりしないので、食べられそうなものなど、ろくにない。
佳音はしょうがなく、空腹を抱え財布を持ち、外へと出た。
少し歩いたところに地元に根付いた小さな商店街がある。小さいとはいえ、大体のものはこの商店街で買い揃えられるので、佳音はいつもここで、必要最小限のものだけ買って生活をしていた。
「佳音ちゃん、調子はどう?仕事も大事だけど、ちゃんと食べないとダメよ」
八百屋のおばさんが、そう言って声をかけてくれる。
この街に住み始めて2年も経ってくると、親切な人たちがいろいろと世話を焼いてくれる。
「佳音ちゃん、これ、切れっ端だけど持って行くかい?」
と、今度は魚屋のおじさんが、サーモンの切り落としをコッソリと、タダでくれた。
こうやってこの商店街の人々は、何かと佳音に構いたがる。別に佳音がここで媚を売って回っているわけでもなく、どちらかというとひっそりと言葉少なに挨拶をする程度だというのに。