恋は死なない。
戻れなくなるキス
生地屋さんから特別に取り寄せた、佳音も滅多に扱わない最高級のシルク。
その上質な手触りと優しく白く輝く光沢感にドキドキしながら、何度も確認して慎重に生地に鋏を入れた。
幸世にフィッティングしてもらった試作品の細かい点を修正し、いよいよ本物の生地を使っての本縫いに入った。
無垢で純白な生地を前にすると、佳音も自然と無心になる。
ここからドレスを作り上げていく過程……、それはどんな状況にあっても、佳音にとっては待ち望んでいること、“喜び”に違いなかった。
逆に、佳音は無心になれるドレス作りに没頭した。夜になって押し寄せてくる、恐ろしいほどの切なさと苦しさから逃れるために、寝る間を惜しんで作業を続けた。
折しも、新しい依頼が舞い込んだ。また、何もないところからのドレス作りが新たに始まる。幸世のドレスやほかの細々とした小物づくりなどと同時進行で仕事をこなさねばならず、佳音は他のことは何も考えられないほど忙しく、息つく暇もないほど働いた。
必然的に、自分の生活のことは後回しになる。なかなか商店街の方まで足を運ぶことができず、食事も近所のコンビニで買って済ませることが多くなった。
「お!佳音ちゃんじゃないか」
夜遅いコンビニで、いきなりそう言って声をかけられた。