恋は死なない。



「……私は、幸世さんのウェディングドレスを作っています。私は、幸世さんが幸せに満たされてあのドレスを着てくれることを、心から願っています」


ふいに口をついて出てきたこの言葉が、佳音の本心だった。
このとき、佳音の心を覆い尽くしていったのは、自分の出口のない恋情よりも、幸世とウェディングドレスのことだった。


和寿も、二人の間に横たわる重大すぎる現実を再認識して、切ない目のまま何も言えず、口をキュッと一文字に引き結んだ。


佳音は一歩二歩と後ずさりして、和寿の両手から逃れる。
ブラウスの胸のところをギュッと握りしめて、哀しみに耐えようとした。手に力を込めるほど涙がこぼれてくる両目で、佳音は和寿を見上げる。


「だからもう、これ以上先に進んではいけないんです。……だから、もうあなたには会いません。もう二度と、工房へも来ないでください」


佳音はやっとのことで、ずっと心に決めていたことを告げると、和寿に背を向けた。そして、和寿が応えるよりも先に、白くけぶる雨の中へと駆け出した。



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