恋は死なない。



幸世はデザイナーとしてのセンスも高いらしく、とても可憐でいて上品で、洗練されたドレスを思い描いてくれた。それに加え、物惜しみせず最高級の素材を選んで作られたこのドレスは、佳音がこれまで手掛けてきたドレスの中でも最高の出来になりそうだった。






工房の近くには公園もないし、大きな木などもないのに、どこかしこから賑やかなセミの鳴き声が聞こえてくる。工房が面する通りは8月の焼けつくような太陽に照らされて、今日も暑い日になりそうだった。

窓の外の景色を目にして息をつきながら、佳音は作業台の上にパターン用紙を広げた。今は、幸世のドレスの仕上げをしながら、新たな依頼主のためのドレス作りが始まっている。


そんな、いつもと同じように淡々と終わっていこうとしていた日の夜だった。
昼間の晴れ渡った炎天下が嘘のように、夜遅くなって突風が吹き始め、雨が降り出した。

こんなふうに降る雨を見ていると、雨宿りのあと和寿のもとから逃げるように帰ってきた、あの日のことを思い出す……。
唇を、そこに残る感覚とともに噛みしめながら、窓のカーテンを引き、佳音は無理やりに切なさを締め出した。



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