恋は死なない。
シャワーを浴びて、余り布を利用した自作のネグリジェを着て、髪を乾かす。
寝る前にパソコンのメールをチェックをして、これからの仕事の段取りを考えていたとき、佳音の携帯電話が鳴った。
知らない番号からの着信だったが、ホームページ上でも公開し仕事にも使っている電話だったので、こういうことはたまにあることだった。佳音は、特に気に留めることもなく、その電話に出た。
「佳音ちゃんの電話かい?」
いきなりそんなふうに呼ばれたので、佳音はギョッとして息を呑む。それに、この声には聞き覚えがあった。
「俺、惣菜屋の謙次だよ」
その名前を聞いて、思わず佳音は身構えた。こんなに夜遅く、どうしてこの男は電話なんてかけてきてるのだろう。
「……なにか、ご用ですか?」
佳音は自分の声色が険しくなっていることに気づきながらも、きわめて冷静を装って謙次に応対した。謙次もいつもの調子で、佳音に要件を話し始める。
すると、その内容は、佳音がいつも危惧しているものではなかった。
「佳音ちゃん、あの例の彼氏となんかあったのか?」
「……え?」
「さっき工房の前を通りかかったら、あいつ、この雨なのに傘もささずに、ずっと佳音ちゃんの工房を見上げたまま、通りに突っ立ってるぜ?なんか、目つきも危なくてよー。うちの母ちゃんなんか、警察に通報した方がいいんじゃないかって言ってるんだけど」