恋は死なない。



それを聞いて、佳音の血相が変わる。電話を耳に当てたまま、通りに面する窓辺に行って、カーテンをめくって外を確かめた。

激しく降る雨の中、謙次の言ったとおり、通りの街灯の下で濡れながらたたずむ男の人影が見える。顔は見えなくても、佳音にはそれが和寿だとすぐに分かった。


「もしかして佳音ちゃん、別れ話がもつれて、あいつにストーカーされてんじゃないか?いきなり警察もアレだから、今日のところは、俺があいつを追い払ってやろうか?」


「……やめてください!」


もちろん、謙次は親切からそう言ってくれているのだとは分かっていたが、佳音は思わず大きな声を出してしまっていた。それから、少し冷静な態度になって、謙次が誤解しないように説明する。


「大丈夫です。……ちょっと、ケンカをしてしまって……、ストーカーなんかされていませんから。でも、教えてくれてありがとうございました」


謙次にそう言ってから電話を切るや否や、佳音はネグリジェ姿のまま傘を持って外へと飛び出した。



アパートの出入り口から降りしきる雨を横切って、和寿のもとへと駆け寄る。
佳音がそっと傘をさしかけると、和寿はうつろに漂わせていた視線を佳音へと合わせた。



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