恋は死なない。
雨の中にいた和寿は、当然いつものビジネススーツで身を固めた清廉さはなかったが、顔色は悪く頬やあごには無精ひげが生え、そのやつれ方はただ濡れそぼっているからだけではなかった。
それでも、優しくて深い眼差しはいつもと変わらず、じっと見つめられると、佳音は胸が詰まって何も言葉が出てこなかった。すると、和寿の方が口を開く。
「……君には会ってもらえないと分かってたけど、もうどうにも我慢が出来なくなって……」
和寿のその言葉を聞いて、佳音は胸が締め付けられて体が震えた。和寿の想いが現れたこの行動に、何と言って答えたらいいのか分からなかった。
「……とにかく、こんなに濡れてるから、工房へ……」
とりあえず、佳音は和寿にそう声をかけたが、和寿は首を横に振った。
「……来ないでほしいって、言ってただろう?」
つぶやくように発する和寿の思いつめた表情を見て、この半月もの間、佳音が悶えていた苦しみを、和寿も共有していたと覚る。
佳音の中にも、和寿に対する想いが溢れ出してくる。想いとともに込み上げてくる涙を押し止めるように、佳音は手を伸ばして和寿の腕を取った。
その瞬間、和寿の腕の冷たさに息を呑む。いつから、どのくらいの時間、和寿はここにたたずんでいたのだろう……?