恋は死なない。
決意の朝
「……君は、こんなに綺麗なのに、今まで誰にも触れられたことがなかったの?」
熱情に任せた行為の後、二人はその息が落ち着くまで、体を横たえたまま抱きしめあっていたが、その沈黙を破って和寿が口を開いた。
佳音はその可憐な相貌だけでなくその体も、細身で少女のような外見にかかわらずきちんと女らしく成熟していて、和寿が言うとおり、絵に描いたように本当に綺麗だった。
こんなに透き通るように綺麗な女性を、世の男性たちが放っておくはずがないと、和寿は思った。
佳音は和寿の腕の中から頭をもたげて、和寿と目を合わせた。
「……古庄先生に失恋した後は、今まで誰にも心を開いてこなかったから……」
和寿は、佳音の大きな瞳を覗き込んで、確かめた。
「今まで、誰にも?……言い寄ってこられることも?」
和寿の指摘を受けて、佳音は自嘲気味に薄く笑みを浮かべる。
「お惣菜屋の謙次さんのような人はいますけど。……やっぱり私は、変わり者だし、誰からも必要とされていないような人間だから」
佳音のこの言葉を聞いて、和寿はじっと彼女を見つめた。彼女の抱えてきた心の寂しさと闇を、今更ながらに理解したような気がした。