恋は死なない。
「何言ってるの、チャラチャラしてる見た目ばかりの人より、誠実でよっぽどイケメンじゃないの。それに、背も高いし、人当たりもいい。仕事も出来て出世も早いとなれば、モテないわけないじゃない。でも、カタブツだったから、あなたとの縁談も出てきたのよね」
どちらかと言うと、結婚をする当の幸世よりもこの母親の方が、ずいぶん和寿に肩入れしているらしい。
「そっか、じゃ、古川くんが私と婚約してガッカリしたOLもたくさんいるのかしら?」
そう言いながら、いつものように幸世は朗らかに笑った。嫌味に聞こえてしまいそうな言葉も、幸世が言うと屈託がなくて、本当に罪がない。
幸せの中にいる母娘の会話を聞いていると、佳音の心は複雑な思いを抱えて暗く陰っていく。
しかし、それを押し殺して、佳音もほのかに笑った。心は切なく震えていたけれど、懸命に祝福する笑顔を作った。
そして、佳音は、幸世の脱いだウェディングドレスとヴェールやグローブを、専用の箱に丁寧に梱包する。
「どうぞ、末永くお幸せに……」
いつもこの工房から花嫁を送り出す時に、儀式のように佳音がかけている言葉。
これから喜びの日を迎える母娘は、それを聞いてニッコリと応えてくれた。ドレスの箱を携えて会釈をすると、連れ立ってアパートの階段を下りていく。