恋は死なない。
佳音は深々と頭を下げて、二人を見送る。それから、ゆっくりと頭を上げると……、そこにはもう誰の姿も見えなかった。
これでもう、唯一つながっていた和寿との関わりも、一切なくなった。
春に和寿と出会う前の、ただ毎日ドレスを作って、ささやかな生活を続けているだけの自分に戻ることができた。何にも心を煩わされることもなく、穏やかに生きていける。
『君を愛している……』
和寿がくれた言葉を思い出すと、まだ胸は切ない痛みを帯びて鼓動を打つけれども、同時に、いつも寂しさで干からびていた佳音の心に、温かい水が染み透っていく。
固く閉ざしていた心が柔らかくなって、何だか、なりたい自分に変わっていけそうな気がした。
佳音は夏の熱い空気を、一息深く吸い込む。
玄関のドアを軽快に開けると、工房に戻って、次の依頼者のためのドレス制作の作業を再開させた。
それからの毎日は、本当に何事もなくゆっくりと進んでいった。9月になると朝晩も過ごしやすくなって、たそがれ時、佳音はふらりと散歩に出て、川辺の方にまで足を延ばすこともしばしばだった。
以前と少し変わったことは、物思いにふけることが増えたこと。ふいに記憶の底から呼び起こされる“和寿”の息吹を感じ取るたび、佳音は深い想いの淵の中を漂った。