恋は死なない。



こうやって一日一日、為すべきことを成し遂げて毎日が過ぎていけば、そのうち十年二十年という時が経っていて、きっと今の苦しさも遠い思い出となっている……。

幸いにも、佳音には全身全霊を傾けられる“夢”があった。ウェディングドレスを作り続けるという夢……、それさえあればどんなことがあっても、生きていけると思った。



そんな平穏という清水の中に、一滴の色のついたインクが落とされる。そんなふうに、その“心配”は佳音の意識の中に、ある日突然浮かび上がってきた。
そして、一度よぎったその心配は、いつまでも解消されず、四六時中佳音に付きまとい始める。


ある日の夜更け、佳音は居ても立ってもいられず、勇気を出して確かめてみた。この心配が、自分が勝手に思い描いた、ただの取り越し苦労だと証明するために。


時間を正確に計り、その結果を確認する。


その瞬間――。
……佳音の頭の中は真っ白になり、その場に立ち尽くした。


妊娠検査薬の判定で、“陽性”の反応が示されていた。


思い当たることは、ひと月前のあの夜のことしかない。
あの夜、あのひと時だけと、誓いを立てて望んだあの行為は、思ってもみない形で佳音へ結果を運んできた。

あの時、和寿の残した一部が小さな命となって、佳音の中に息づいていた。


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