恋は死なない。
呆然として微動だにできない状態から、その事実を認識していくにつれ、かすかに体が震えてくる。そのあとから襲ってきたものは、喜びなどではなく、とてつもない動揺だった。
――どうしよう……!!どうすればいいの……!?
冷静になって考えなければと思うのに、思考がうまく働いてくれない。
生理が十日以上も遅れていて、うっすらとこの可能性に勘づいていたにもかかわらず、佳音は突きつけられた現実に、あからさまにおびえていた。
ダイニングに戻ってきても、そこにたたずむばかりで何も手につかない。
これから自分がどうなってしまうのか分からず、怖くて怖くて仕方がない。影のように、不安が佳音の心と体を常に圧迫して、ドレスを作る作業はおろか、生活すべてがままならなくなった。
ダイニングの椅子に座り、テーブルに腕をつき、混乱する頭を抱えているうちに、一日が過ぎていく。
現実から目を逸らしている間にも、佳音の抱えた不安は消えてくれるどころか、どんどん膨れ上がっていく。お腹の中の小さな命は、すさまじい速さで細胞分裂を繰り返し、日一日と大きくなっているはずだ。
産まない選択をするのなら、早く決断しないといけないのは、佳音にだって分かっている。だからこそ、焦っていた。
幾分佳音が冷静に考えられるようになったのは、数日後、ようやくきちんと眠れた後の朝のことだった。