恋は死なない。
あなたの一部
身を切られるような思いをしてまで、辛い決断をしたのだから、それが鈍らないうちに、行動に移さなければならない。
佳音は、次の日には、工房から遠く離れた場所にある産婦人科の病院へと向かった。
近い場所にも産婦人科はあるのだが、知った顔に会う可能性のあるので行けなかった。このお腹の中にいる命の存在は、誰にも知られるわけにはいかない。
この存在は、佳音一人の中で“完結”させなければならなかった。
「妊娠してますね。きちんと子宮内に着床してるし、赤ちゃんは……パクパク動いているの分かる?」
内診用の椅子に座って、和寿にしか見せたことのない場所を、男性医師から診察される。
佳音の横にあるモニターには、佳音の子宮内のエコー映像が映し出されていて、その画面の中で、かすかに点滅するように動いているものがある。
「これが、赤ちゃんの心臓。もうちゃんと、動いてるね」
事務的な言い方の医師の言葉を聞きながら、佳音の視線はそれに釘付けになる。佳音の中で息づくものは、もうすでに命の営みを始めていた。
内診が終わって、診察室で医師と向き合って説明を受ける。そこで問題になったことは、やはり佳音が未婚であることだった。
「結婚は、していないんですよね?」
「……はい」