恋は死なない。
医師からの質問で鋭く胸をえぐられながら、佳音は小さくうなずくしかなかった。
これから赤ちゃんの“父親”と結婚して、なんの不安もなくこの子を産めるのならば、どんなに幸せなことだろう。
「これから結婚する予定ですか?」
「……いいえ」
今度は、かすかに首を横に振る佳音の表情を見て、医師の方もにわかに険しい表情になってくる。
「それじゃ……、一人で産みますか?……それとも……」
医師はそれ以上は言わなかったけれども、佳音には何のことを言っているのか、すぐに分かった。
自分の中にすでにある決意を、口に出すための勇気を貯める間、佳音は唇を噛んで言い淀んだ。
「悩んでしまうのは分かりますが、もし産むことを諦めるのなら、時間はあまりありませんよ。胎児がまだ小さいうちでないと、あなたの体への影響が大きくなりますからね」
医師からも、急かされるようにそんなふうに言われ、佳音は思い切って口を開いた。
「一人ではとても育てていけないので、産むことは諦めようと思っています」
小さい声でも、確固たる意思が感じられる佳音の返答に、医師も佳音の事情を感じ取ってうなずいた。
「……分かりました。それでは、そのように予定を立てましょう」