恋は死なない。
ぎこちなく目を逸らして、また小さく会釈をする。
「…すみません。もうそろそろ帰って、食事をしたいので…」
「ああ、こちらこそすみません。お引止めしましたね」
和寿の方も、本当に済まなそうに頭を下げた。
狭い店内なので、佳音は和寿の横をすり抜けるように、出入口へと向かう。
「お花を見せてもらって、ありがとうございました。いつも見るばかりで、すみません…」
そして、中年女性の店主に、そう声をかけて出て行った。
残された和寿と店主が、必然的に二人きりになる。店主は何を感じ取ったのか、ここぞとばかりに和寿へと話しかけた。
「あの子、可愛いでしょう?実は、この商店街の密かなアイドルなのよ。この近所に住んでて、細々と暮らしてるの。きっと、なかなかお花を買う余裕なんてないんでしょうね…」
どうやら店主は、和寿が佳音の可愛さに惹かれてナンパしたと勘違いしているようだ。
見るからに堅い仕事をしてゆとりのありそうな和寿を見て、佳音との仲を取り持とうとしてるのか、花を買うようにただ営業しているだけなのか…、世間話のようにそんなことを言った。
和寿は面食らって、目を瞬かせながら店内を見渡した。
店主の言わんとしていること以前に、このまま何も買わずにここを出て行くのは、非常に極まり悪かった。