恋は死なない。
それに気がついた佳音は、無言のまま体を震わせ、その大きな目には涙を溜めた。
そんな佳音の様子を見て、看護師は表情を曇らせて、言葉をかけてくれる。
「……事情があって、赤ちゃんの父親が分からなかったり、連絡が取れない場合は、誰か知り合いの男の人に頼んで、代わりに署名してもらってもいいのよ……?」
看護師は、佳音が望まない相手との子どもを妊娠をしてしまったと思っているのだろう。
そんな看護師の誤解に対して、佳音は涙をこぼしながら、また首を横に振った。
何も言わずに泣き出してしまった佳音を、看護師も黙ったまま見守っている。
そして、佳音は涙をぬぐいながら、その言葉を絞り出した。
「……やっぱり、やめます。赤ちゃんの命を消すことはできません」
佳音が出したその結論に、看護師は、その表情の曇りはそのまま、心配そうに佳音を見つめた。
「それじゃ、産んで、育てられるのね?」
その問いに、佳音は何とも答えられなかった。産んで育てられる自信は“ある”と、とても断言できなかった。
それでも、このお腹の中の命は、何があっても守らなければならないと思った。
佳音はうつむいていた顔を上げて、涙をぬぐうと、それ以上こぼれてくるのを我慢するように、キュッと唇を結んだ。それを見て、看護師も深いため息をつく。