恋は死なない。



「赤ちゃんのことは、あなた一人で抱え込まないでいいのよ。赤ちゃんの父親にもきちんと考えてもらって、話し合ってから結論を出した方がいいわね」


看護師はそう言うと、手術が中止になったことを、医師に伝えに部屋を出た。それから、ほどなくして佳音のもとへと戻ってきて、医師からの言葉を伝言する。


「とりあえず、産むか産まないかにかかわらず、1週間後にまた診察を受けに来てください」


佳音はしっかりうなずくと、席を立ち、待合室へと戻った。






病院を出てからも、佳音は工房へは帰らず、その心の中を表すように、あてどもなく街の中をさまよった。


“この命は消したくない”とは思うけれども、どうやって一人で産んで育てていけるのか、佳音は本当に途方に暮れていた。
いくら街を歩いても、答えが落ちているわけでもなく、いつしか佳音は緑の深い公園のベンチに座りこんでいた。


9月の爽やかな空気のもと、晴れ渡った空は高く、その青さに吸い込まれるようだ。
こんなに綺麗な空を見上げても、佳音の心は少しも澄んでいってくれない。重く大きな不安に、今にも押しつぶされてしまいそうだった。


そのとき、ふいに先ほど看護師が言っていた言葉を思い出す。


『赤ちゃんの父親にもきちんと考えてもらって……』



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