恋は死なない。
佳音は大きな不安と苦しさに圧し負けて、気がつけば和寿のいる会社へ足を向けていた。
あれほど、妊娠のことを和寿には知られてはならないと思っていたのに、自分を止められなかった。
それほど、日々変化していく自分の体、妊娠という現実にたった一人で直面するのが怖くて、ただただ助けてほしかった。
入り口を入ると、いかにも大企業らしい吹き抜けで広々としたロビーがあり、そこに和寿のようなきちんとした身なりの男女が行き交っている。
洗いざらしのコットンのブラウスにギャザースカート、かかとの低いサンダルを履いた佳音は、相当に場違いな存在だった。
衝動的に来てしまったのはいいが、佳音はどこに行っていいのか分からず、キョロキョロと見回して“総合受付”とあるところへ向かった。
「すみません」
と声をかけると、佳音と同年代の女性が、「はい」と上品な微笑みとともに応えてくれた。その指先のネイル、まつげに施されたマスカラ、細部にわたって完璧なその様に、佳音は気後れしてしまって思わず体がこわばった。
「いらっしゃいませ。ご用件をお伺いいたします」
受付の女性の柔らかい物腰に促されて、佳音もおどおどと口を開く。