恋は死なない。



「あの……、経営企画室の室長補佐をしておられる古川和寿さんにお会いしたいんですが……」


もともと人と関わりを持つことが苦手な佳音の、最大限に振り絞った勇気だった。それほど、和寿に会うために必死だった。


「経営企画室の古川でございますね。失礼いたしますが、ご面会のお約束はなさっていらっしゃいますか?」


その質問に、佳音の勇気が一瞬にしてしぼんでいく。やはり和寿は、そう簡単には会うことのできない人間のようだ。


「……いえ、約束はしていないんですけど……」


佳音は小さくなって、消え入るような声で答えた。


「少々、お待ちくださいませ」


受付の女性はそう言うと、電話の受話器を取り、どこかへ連絡を取り始める。佳音は待たされている間、その場違いな姿の自分に、周囲の人たちの視線が集まっている気がして、身につまされる思いがした。


「お待たせいたしました。古川は、ただ今会議中でして、その会議の後は取引先との会合に出る予定になっています。会議後に少し時間を取れるかもしれないとのことですが、それまでお待ちいただけますか?」


それを聞いて、佳音はますます委縮した。和寿の事情も考えず、こんなところにまで来てしまって、たとえ会えてもきっと和寿は困惑するに違いない。



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