恋は死なない。




「……いえ、お忙しいようですので、もういいです」


和寿に会いたいことには違いなかったが、それよりも佳音は、一刻も早くこの場所から逃げ去りたくなった。


「ご要望にお応えできずに申し訳ありません。ですが、お客様がいらっしゃったことは古川へ伝えておきますので、お客様のお名前をお聞かせいただけますでしょうか?」


こんな自分のような得体のしれない人間に対しても、受付の女性が丁寧な対応をしてくれることはありがたかったが、佳音は首を横に振った。


「いえ、伝えなくても結構です。私のような者が訪ねて来たことも、古川さんには言わないでください」


佳音は頭を下げながら、そう言い残すと、きびすを返して駆け出した。

ロビーを出て、街の中をやみくもに走っていると、そのうち息が上がって走れなくなった。立ち止まって息をついても、多大な緊張の後の体の底からの震えは、そう簡単に消えてくれなかった。

佳音の心臓がドキンドキンと、激しく脈打っている。それはまるで、佳音のお腹の中で確実に鼓動を打っている、赤ちゃんの心臓と呼応しているようだった。









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